絵画鑑賞の何が楽しいのか(アルチンボルド展に行ってきた)

国立西洋美術館でやっているアルチンボルド展に行ってきた。

アルチンボルドは昔から好きだったので、四季と四大元素両方をまとめて見れるなんて貴重な機会はないわ、と興奮さながらに上野へ出かけた。

ウィーン美術史美術館から来たものは少なかったけれども、デンバー美術館やら個人蔵やらからでも、かき集めたのには拍手です。四季と四大元素はそれぞれペアになるため、それを一緒に展示させるスタイル。企画者はきっとこれがしたかったのだろう。

「季節も地球もまるごとあなたのものです!」的なメッセージと、その絵に散りばめられた世界中から集められた動物や魚、花のリアルな絵は、まさにハプスブルグ家の世界統治を示すものであり、皇帝はこの絵を見て、さぞ気持ち良かったことでしょう、と。

特に「水」に描かれたベニサンゴは、ドイツエリアの美術館でよく見られる工芸品にもよく用いられる富の象徴みたいなもんなわけで、そんなのも頭から飛び出しちゃうほどの豪華さなわけであって、見ている方もニヤニヤしちゃいます。

で、この作品、初めて皇帝に献上されたのはウィーン美術史美術館にあるわけだけど、それ含めて現存するのが4セットくらいあるらしく、皇帝のすごさを伝えるポスターとして複数描かれたもの、っていうスタンスで見ることは忘れちゃいけないと思うの。プロパガンダよ。

で、その中でやっぱり、皇帝どうのこうのっての関係なく素敵なのは「春」だよねー、と。本当に素敵だわ。春の惚け感すごいでてるし。こういう引力ある絵もあったから、ポスターだとしてもすばらしいのよね。などと考えながら鑑賞しました。

 

さてさて。アルチンボルド的な寄せ絵ってのは、一体何から着想を得たものなのでしょう?ってのは、それなりの絵画好きでも疑問に思うところであろうと思う。なぜなら、こんな寄せ絵を描いた画家ってのは、少なくともこの時代にはいないから。

「いない」というのは正確な表現ではないけれど、美術史の表舞台に名前が残る人のなかで、こんな寄せ絵やトリックアートの類を描いていまだに名前が残っているこの時代の人はこの人だけだから。(そして当時残したインパクトの割に、その後のフォロワーがほとんどおらず、いきなり数世紀を経てダリとかがこれに感嘆するという、次世代への影響度の少なさもすごく面白いんですよね。)

人によって絵画鑑賞の面白みは全くそれぞれだと思うんだけれど、私は、ある画期的なアイデアや技術に見えることでも、それは過去にあった技術の応用だったり、伝統をひとひねりしてみたものだったりすることが分かる瞬間ってのにとても心が躍るタイプ。描き方そのものってよりは、それが描かれた経緯とか、この絵のここをオマージュして、とか、それは画家が意図的にしたものも面白いけれど、無意識的なものに気付く瞬間はもっと面白い。

で、今回の展示ではオッターヴィオ・ミゼローニの工芸品がいくつか来ていた。ヨーロッパの美術館だと、16世紀頃からポルトガル経由でヨーロッパに輸入されたオウムガイなどを船に見立てたりしたエキゾチックな工芸品ってかなり幅を利かせているんだけれど、日本で紹介されることってあんまりないんですよね。(絵画なんかよりもよっぽど一般には感動を生む素晴らしいものだと思うんだけど。)

アルチンボルドと同じ、ミラノ出身のミゼローニの作品は、自然界の貝やサンゴを利用して、それの周りに飾りを散りばめて、いかにもバロック!って感じなんだけれども、それを絵画でやったのがアルチンボルドなのねぇ、ってのが暗に示されていたのは面白かった。自然界で取れた美しいもの・珍しいものが当時一番、人を驚かせるアートだったわけですねぇ、と。

そういう当時の高尚な貴族的流行りのベースがあるんだけれど、それと対照的な存在として、実際にオマージュされた可能性があるものとして展示されていたものが、男根によって描かれた頭部のだまし絵のマヨルカ焼き。要は勃起したチ●コがいくつも連なって描かれた絵ですよ。こういうモチーフが当時のヨーロッパでよく描かれていたらしいとのことで。もちろん、世俗的なものなので一般の美術史上はあまり出てこないんだけれど。

この高尚さと世俗さのギャップを織り交ぜたアルチンボルド、ってなことで、当時この絵を見た人は暗に男根のことも想起させられていたやもしれず、そうなるとまた絵の受け取り方も違ってくるよなぁ、なんて。

そんな当時の想像もさせてくれるという意味でなかなか素晴らしいアルチンボルド展でした。